ガラスの破片が地面へと音を立てて降り注ぐ。高層ビルはその形を大きく歪めることで巨大な少女の身体を受け止めた。

「あ……ぁっ……」

ソフィーはビルにもたれかかったまま、身体から離れるように伸ばされた右脚を手を使って引き寄せる。脚が動かせないのだ。彼女の右脚、その太ももとふくらはぎには数本の巨大な釘が突き刺さっている。あまりにも異様で、痛々しい様だ。

そんな彼女の姿を二人の宇宙人は好奇の目を輝かせ眺めている。

「ハハッ、兄さん。この雌、面白いね。あの脚じゃろくに動けないだろうに立ち向かって抵抗してくるなんて」

「あぁ、そうだな弟よ。こんな女は初めてだ。捕らえて私のものにしてやろう」

二人はアネルス星人の双子の兄弟だ。

容姿はまさに瓜二つで、丸い頭に半球状に盛り上がった大きな眼球。トンボのような頭部だが縦長の口は不気味にうごめき鋭い牙をのぞかせている。骨格は二足歩行の人型だが灰色の身体は節くれだっている。

「何を言っているんだい兄さん。傷を追っても立ち向かってくる珍しい獲物だよ。向かってくる限り痛めつけて、とうとう逃げ出したところを追いかけトドメをさしてやるんだ」

弟のモーグが不満を、しかし声を弾ませて言う。ソフィーを狩りの対象としてしか見ておらず、ただただ狩りを楽しんでいるのだ。だが、兄のジターは違うようだ。

「弟よ。お前は本当に狩り以外の愉しみを知らんのだな」

ジターの言葉は呆れの色を含んでいる。

この双子宇宙人は日頃、宇宙を股にかけ狩りを行なっている。狩りといっても、捕らえた獲物を糧としたり、生活圏を守るためにするような、生きるために必要な狩りではない。道楽だ。それも、獲物を罠にかけ、傷を負い逃げ惑う獲物をを追いたて、追い詰め、傷めつけるという残虐な狩りだ。

「見ろ、弟よ。この獲物は獣の雌とは違う。女だ。それも良い身体をしている。目鼻顔立ちも可憐で……」

「わかった、わかったよ兄さん」

モーグが兄の主張をさえぎる。

「まったく、兄さんは獲物が雌のとき、ときどきそんなことを言い出すよね。僕にはなんのことやら……」

「弟よ。雌ではない。女だ。よく見…おや?」

ジターは会話を途中で止めた。獲物がようやく起き上がったのだ。向けられているのは背中ではない。視線だ。息を切らしているが左半身をやや前に半身に構えている。

しかし、その意識は痛みを訴える右脚にしばしばに奪われ、右手が添えられている。

「脚が…あぁッ……!」

ソフィーもまたこの双子に狩りの獲物として狙われ、罠に堕ちた。

ソフィーの脚に突き刺さっている巨大な釘。それだけでも痛みでまともに動かすことも、立つこともできないほどの重傷だ。しかしソフィーを苦しめているのは、それだけではない。金属製のその釘、それ自体の重さだ。

釘は対象に突き刺さった後返しを形成し、容易に抜くことが出来ないようになっている。

そして超重量の釘は、突き刺された脚を引きずって歩くことすら困難にし、傷口を広げ苦痛を与え続ける枷となる。

残虐な狩りを好む、いかにもこの双子が好む拘束具だ。

「うっ、ぐっ…あああああぁっ……!!」

ソフィーは吠えながら、右腕を水平に振るいエネルギーの刃を放つ。決して右脚が動かせないふりをしていたわけではない。しかし、ソフィーは右脚をかばう動きで右腕が隠れることをあえて利用し、エネルギーを集中していたのだ。

だが、距離がある。大きな動作で放たれる光線は容易にかわされる。しかし、それはソフィー自身にもわかりきっていることだった。

余裕からか、揃ってその場を動かず大きく身を反らすことでソフィーのスラッシュブライトをかわした二人には大きな隙が生まれている。

今の、片足を枷とされたソフィーではたとえどちらか片方倒しても、もう一方とまともに戦っては勝ち目はない。エネルギーを収束し放ったのでは先程と同様にかわされるだろう。ソフィーは間合いを詰めながら両腕にエネルギーを収束させる。一刀で一人を、返す刀でもう一人を一気に倒す。ソフィーは右手側、双子宇宙人の兄ジターに斬りかかった。

「遅いよ」

しかしソフィーの刃は届かない。今のソフィーの右脚は、引きずるにはあまりに重く、その痛みは緩慢な動きを強要する。隙を突くにはソフィーの動きは遅すぎた。

「あっ……!?」

前のめりに倒れるソフィー。弟のモーグに左足をかけられたのだ。

「ハハッ、本当にこの雌は面白い。こんな脚じゃどうやったってまともに戦えるわけないのに」

「ああああああぁっ……!?」

釘の突き刺さった太ももを踏みつけられ、ソフィーは堪えられず悲鳴を上げる。傷口が血を溢れさせる。

「……?どうした弟よ?」

弟の様子に違和感を覚えたジターが問う。

「はっ、あっ……、くっ……」

ソフィーの喉から、痛みによってもたらされるもの以外の声が混ざる。

モーグはソフィーの太ももから、足を徐々に上にずらし、物色するように踏みにじっていた。ソフィーの、その丸みを帯びた豊かな尻をだ。

「なるほど。これは確かに良い物だ。ここで殺してしまうのは惜しいかもしれないよ兄さん」

「そうかそうか、ようやくお前も狩り以外の愉悦に目覚めたか弟よ」

兄はカラカラと笑い言った。しかし、モーグの魂胆は兄が思っているものとは少々違った。

「いや、兄さん。僕が愉しみたいのはあくまで狩りだよ。なぜだかわからないけど、この尻を無性に追いかけ回したくなったのさ。でもこの雌はこんな状況でも向かってくる。だから逃げ出すまで調教してから改めて狩りを愉しみたいんだ。それも一度で殺してはもったいない。あきるまで何度も狩ってやるんだ」

「そうかそうか、弟よ。お前は本当に狩りが好きなのだな」

そう言ったジターだが、彼は弟の小さな変化に気がついていた。

「ではこうしよう、弟よ。調教も狩りも二人で行おう。私のほうがこの女に有効な調教を施せるだろう。そして狩りの楽しみは二人でわかちあおうではないか」

「……。わかったよ兄さん。この雌を生け捕りにしたいと言ったのは元々兄さんだしね。それでいいよ」

数瞬考えたがモーグは素直に兄の提案を受け入れた。

「よしよし、弟よ。では今はこの場の狩りを、心ゆくまで楽しもうぞ」

ジターは実モーグのことをに御しやすい弟だと思っている。だが、狩りの愉しみ方の齟齬に常々悩んでいたのだ。

それが今、小さな変化を見せている。この獲物との出逢いによって。

「そうだね、兄さん。さぁ向かってこい。そして僕らのものになるんだ」

モーグは尻から足を話し、ソフィーに立ち上がるよう促す。

「うっ、くぅっ……」

淀みなく続けられる双子宇宙人の邪悪な会話はソフィーの心に、『自分はただの獲物、弄り物でしかない』という感情を嫌でも刻みこむ。

それでもソフィーは立ち上がろうと身体に力を込める。右脚は動かすこともできず、重い枷でしかない。苦しみもがくその姿は足をもがれた小虫も同然だ。だがその目は、その目に宿るものは決定的に違う。抗うことを諦めない、光の宿った目だ。

「やあああ……あぐっ、うっ、きゃあああっ……」

だが、ソフィーには反撃の手立てが思い浮かばない。無手で突っ込み、良いように痛めつけられる。

負けるわけにはいかない。このままこの二人の元に下ることなどあってはならない。

しかし、こうして抗い続けることさえこの兄弟を愉しませるだけなのではという感情が拭い切れず思考を乱すのだ。だが、当然ここ死ぬわけにもいかない。

兄弟、特に兄のほうはすでに興奮しているのか息を荒げ、口からは分泌液を垂らし始めている。

なにせ一方的な戦いだ。腹を、胸を、太ももを、尻を、打撃するたび伝わる柔らかな少女の身体の感触。みるみる弱っていく肉体に反して強く、悲痛に変わっていく悲鳴。苦しみ悶える肢体、密着すれば僅かに漏れる喘ぎ声と苦しげな息遣いすら聞き取れる。愉しんでいるのだ。味わっているのだ。戦いの中でさえ、ウルトラガール・ソフィーという女を。

「あああああっ、あぐぅ……」

双子宇宙人の光線による爆発で飛ばされ、地に倒れ伏すソフィー。

「はぁっ、はぁっ……くっ、うぅ……」

ソフィーは立ち上がれぬまま、身体全体で右脚を引きずるように後ずさる。二人の宇宙人はすぐに追いかけたりはしない。じっくりと観察するようにその様子を眺め、ソフィーの背がビルに触れ、後退を止めてからにじり寄る。

「どうした?向かってきなよ。それじゃあ調教しがいがないよ?逃げも抗いもしないんじゃ狩りにならないよ」

「それとも、もう私のモノになる決心がついたか?だが、濡れ事においても私は優しくはないぞ……ククク」

叩きつけられる歪んだ欲望。

ソフィーは足の痛みから喘ぐように肩で息をしながらも、ビルに身体を預けなんとか立ち上がろうともがく。戦うためだ。この二人が何を望もうが関係ない。

だが、痛めつけられ、傷と汚れにまみれ、脚の痛みで吹き出す脂汗でじっとりと濡れたその身体、苦痛にゆがむその美貌は心ならずも双子宇宙人の劣情をさらに煽り立てる。

「いいぞ!立て!諦めずに向かってこい!こんな胸の高鳴りは初めてだ!」

「あぁ、まだ抗う気力が残っているのか。いいぞ、いい女だぁ……さぁ立て!」

目を血走らせ、鼻息荒くソフィーを煽る。

最上の獲物を目の前にした二人の欲望はすでに剥き出しだ。

ソフィーはなんとか冷静であるよう自分に言い聞かせる。おぞましい欲望に心を乱されないよう。立ち上がる。

「私は、諦めない……、あなた達の思い通りにもならない!うわあああああ……!!」

ソフィーは両腕に光を纏わせ、叫ぶ。

「そうだ!良いぞ!もっと我々を愉しませろ!!」

同時に声を上げた双子宇宙人に、応えるかのように、ソフィーが駆ける。しかし、その脚は重く……。